宮本税理士事務所

【不動産鑑定評価額と相続税評価額について】

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不動産鑑定評価額と相続税評価額について

不動産鑑定評価額と相続税評価額について

2023/03/03

 保有財産割合の中で不動産はかなりの割合を占めております。私自身お客様の保有財産を確認させて頂くと、ほとんどの相続税申告の中に不動産が含まれております。特に相続税額に影響を与えやすい項目としては、現金預金(名義預金)や不動産の評価、非上場株式の評価等が挙げられます。

 国税庁より発表されております令和4年12月付の「令和3年分相続税の申告事績の概要」を見ても、財産の構成割合のうち、①預貯金34%、②土地33.2%、③有価証券16.4%、④家屋5.1%、⑤その他11.3%と財産の7割が預貯金と不動産で占められております。そのため、この両者の金額を適正に申告することにより、税務調査のリスクが減ることにも繋がると思います。

 そこで、今回は土地の評価方法について、相続税ではどのように評価するのか、不動産鑑定評価との違いなどを見ていきたいと思います。

相続税評価額と鑑定評価額の相違点について

 

1.相続税評価額

 まずは相続税を評価する際の評価の原則では相続税法第22条(評価の原則)ではこのように規定しております。

この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

相続税法の中では、財産の時価という記載がありますが、各財産の具体的な評価方法についての記載はあまりありません。どこで規定しているのかというと、財産評価基本通達に各財産の評価方法が定められており、この通達に基づいて各財産を評価していくことを原則としています。通達の中で、時価の意義も定められております。

【時価の意義】

 財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。

 このように、時価については財産評価基本通達に基づいて把握していくことになりますが、土地の評価については、次の二つの方法のいずれかの方法により評価していくことになります。ここでは、所有者以外の権利が含まれていない自用地(更地や使用貸借)を前提としております。第三者に有償で貸している場合や借地権の場合には、記載の評価方法に修正を加える必要があります。ここでは具体的な算式などは割愛させて頂きます。

<1>路線価方式

 路線価方式とは、国税庁が毎年7月に公表する路線価(1㎡当たりの単価)×地積で土地の相続税評価額を算出する方法です。路線価とは、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。)ごとに設定されており、市街地にある土地であればこの路線価に基づいて評価することになります。

 土地の相続税評価額を計算する場合には、一度公表された路線価(1㎡当たりの単価)を採用することになるため、路線価を公表した後に急激な地価の変動や景気の動向などは反映されておりません。不動産本来の時価の考えであれば当然、金利や景気の動向等も踏まえた価格となりますが、相続税評価額を求める際にはそういった修正は行っておりません。そのため、路線価は長期的に使用するということも踏まえ、評価額に安全性を持たせており、時価の8割程度で設定されております。

<2>倍率方式

 倍率方式とは、固定資産税を課税するための固定資産税評価額×倍率で相続税評価額を算出する方法です。この倍率についても、国税庁より発表されております。市街地以外の土地については、倍率方式で評価することが多いです。

このいずれかの方法により、概算で土地の相続税評価額自体を算出することは、難しくないと思います。

 しかし、ここで評価が終了というわけではなく、土地は様々な個別的な要因が影響しますので、財産評価基本通達の中においても、二方路、三方路に面している場合や、大規模な画地、不整形な形状の宅地など、その宅地の状況に応じて各種補正率が定められておりますので、その補正率を考慮して最終の相続税評価額が算出されます。

 土地の相続税評価額を算出する際には、税負担を抑えるために土地の評価額が下がる減額要因を見つけることが出来るかがポイントとなります。土地の価値は建築可能な建物等に左右されますので、建物等が建築出来ない土地については、建物等が建築出来る土地と比較して低い評価額となります。

 そのため、土地を適正に評価するためには市役所へ行政的な要因を確認する必要があり、現地を確認する必要性があります。しかし、これらの調査は相続税の申告の際に、義務化はされておりませんので、机上での評価で完結する場合も多いと思います(鑑定評価上、役所調査・現地調査は必須です)。

2.鑑定評価額

 次に鑑定評価額ですが、前提として不動産業者が売買の際に参考として提示される査定額との違いについて記載させて頂きます。

 まず、不動産業者の査定額ですが、あくまでも売買の際の参考資料ですのでその価格に法的効力はないものになります。その地域の相場間や不動産の状況から見た売却見込み額となりますので、報酬などは発生せず無料で提示頂けるものです。

 これに対し、不動産の鑑定評価額については「不動産の適正な価格」を算出することを目的に国土交通省が定めている「不動産鑑定評価基準」に基づき評価を行い、法定効力を持った価額という点が異なります。

 不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務となっており、有償で作成を依頼するものですので、査定額とは目的が異なります。鑑定評価額が必要となる場合をいくつか挙げると、次のような場合が該当します。

<例示>

・金融機関における担保評価

・裁判上の評価

・上場企業における不動産の時価開示

・親族間売買の不動産評価

・不動産の賃料評価

・不動産の現物出資をする場合

・遺産分割時の時価把握

・地価公示

 このように、不動産の価格に客観性を持たせる際には鑑定評価が必要となって参ります。親族間での売買などでは、自由に売買価格を決定することも可能であるから、通常の相場よりも低額又は高額で譲渡することも可能です。税務上は、時価よりも著しく低額で譲渡した場合には、時価で売却したものとみなして所得税を計算する規定が設けられておりますので、時価を把握することは大事な作業となります。

 次に鑑定評価額の求め方について、見ていきたいと思います。

 不動産の鑑定評価とは、不動産の適正な時価を的確に把握する作業であることから、求められる鑑定評価額については、一般の市場参加者の財に対する経済価値の判断基準を反映したものである必要があります。

 一般の財も不動産も経済価値(価格)を判断する際に、「価格の三面性」を考慮して判断されているとされています。①その財産にどれほどの費用が投じられたか(費用性)、②その財産を利用することによって得られる収益はどれほどか(収益性)、③その財産がどれほどの価格で市場で取引されているか(市場性)、という3つの点を考慮しており、これを「価格の三面性」といいます。

この「価格の三面性」を踏まえて、不動産の鑑定評価基準では次の基本的な3つの評価手法を定めております。これら以外の評価手法もありますので、代表的な手法を記載させて頂いております。

<1>原価法(費用性を重視した評価手法)

 原価法とは、「価格時点」における対象不動産の①再調達原価を求め、この再調達原価について②減価修正を行なって対象不動産の価格を求める手法です。鑑定評価額では相続税評価額を求める場合と異なり、必ずいつ時点の評価を行うのか決定し、それが「価格時点」です。

 ①再調達原価とは、建物の場合には対象不動産の新築に係る費用、土地についてはその土地の最有効使用を前提とした価格として求めます。

 ②減価修正とは、減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原価から控除して価格時点における適正な価格を求めることです。減価の要因は、「物理的要因」、「機能的要因」、「経済的要因」に分けれられ、それぞれの要因を考慮して減価修正の金額を計算します。

 原価法により算出した評価額を「積算価格」といいます。

<算式>

 再調達原価 - 減価修正 = 積算価格

<2>収益還元法(収益性を重視した評価手法)

 収益還元法は、対象不動産の収益性に着目した手法であり、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総額を求めることにより対象不動産の価格を求める評価手法です。この手法により求めた価格を収益価格といいます。収益価格を求める方法は、さらに①直接還元法②DCF法の二つがあり、①直接還元法は更に細分されて永久還元法と有期還元法(インウッド式)に分かれることになります。

細かな違いは今回は割愛させて頂きますが、どの方法も評価の際に使用する要因は対象不動産の①純収益と②利回りを算出することにより、対象不動産の価格を求めることになります。

 収益還元法により求めた価格を、「収益価格」といい、収益還元法は対象不動産の賃料と価格の関係性に着目した評価手法となります。

<直接還元法(永久還元法)の算式>

 対象不動産の1期間の純収益 ÷ 還元利回り = 収益価格

<3>取引事例比較法(市場性を重視した評価手法)

 取引事例比較法は、対象不動産の市場性に着目した手法であり、対象不動産と類似した多数の実際の取引事例に事情補正・時点修正・地域の相違点・個別的な格差等を補正して対象不動産の価格を求める評価手法です。この方法により求めた価格を、比準価格といいます。

 この取引事例については、市場で実際に成約された売買実例であるため、売り手と買い手のそれぞれの事情によって、取引価格は左右されます。例えば相続後などで相続税の納税資金に充当するため、一般的に不動産の売却に要する期間よりも短い期間で売り急いで売却した場合など、相場よりも安く売却してしまっている場合には、特殊な事情があるものとして、増額補正を行います。

<算式>

取引事例の㎡単価 × 事情補正 × 時点修正 × 標準化補正 × 地域格差 × 個別格差 × 地積 = 比準価格

3.相違点

 相続税評価額は上記に記載の通り、路線価に基づいて計算するか、又は、固定資産税評価額×倍率で計算する方法であるため、鑑定評価額と比較すると簡便的に算出することができます。

そもそも相続税評価額は相続税を計算するための評価額です。

税金の大原則には「課税の公平性」という概念がありますので、土地の評価については納税者が路線価等を使用することによって土地の評価額に大きな差異が生じないことになります。結果、相続税の負担について考えても、土地の評価額を誰が評価しても同じ評価額となる仕組みを採用することで、相続税の負担についても同様となり公平性が確保されるということになります。また、実務上、複雑な評価方法にしてしまうと相続実務上の弊害が出る可能性もありますので、事務負担軽減という趣旨も含まれていると思います。

 鑑定評価額は、ある一定時点の不動産の適正な価格を求めることが目的となります。物の価値は、上場株式など市場で単価が公表されているものは分かりやすいですが、不動産についても上場株式等と同様に毎日経済的価値は変化していくものです。そのため、鑑定評価額を求める際には「価格時点」を決定する必要があります。鑑定評価額は、相続税評価額よりもより細かく計算していきますので、一つの土地を評価する複数の評価手法を適用して計算することになりますので、ある程度の日数が必要となるものです。鑑定評価書には鑑定評価額を算出するための根拠が詳しく記載されておりますので、説明性がより優れたものとなりますが、それだけ一つの物件の評価に時間をかけて作成しますので事務負担も多いです。

相続税評価額と鑑定評価額の乖離について

 

 これまでの内容を見て頂きますと、相続税評価額の方が鑑定評価額よりも低い金額となると思われる方も多いかと思います。実際に、市街地で売買される事例などを見ると、多くは相続税評価額以上の価格で取引されておりますので、取引事例比較法を採用した比準価格などは相続税評価額より高い金額となることが多いと思います。

 しかし場合によっては、相続税評価額の方が高く、売却価格の方が安くなってしまうケースもあります。その場合に相続税評価額を採用するのか、売却価格を採用するのか迷うことがあるかと思います。

路線価等に基づいて評価することが著しく不適当と認められるような特別な事情がある場合には、鑑定評価額等に基づく評価額が認められる場合もあります。例えば、既に述べたような相続後に売り急いで安く売却する場合は、特別な事情には当たらないと考えられます。

 鑑定評価額を相続税の申告に採用する場合は、鑑定評価額の方が相続税評価額よりも低く算出される場合です。原則は、路線価等に基づく評価であることを認識し、鑑定評価額が税務署に否認されるリスクもありますので、鑑定評価額を採用する場合には否認リスクをよくご理解された上で、活用されますようご留意ください。

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