相続発生前の対策について
2024/05/21
相続税の対策といっても、具体的にどう進めていけばいいのか分からないとお悩みの方も多いのではないでしょうか。ご家族の方が将来の相続を心配して色々と悩まれても、ご本人様がやる気にならなければ前に進みません。「相続対策はお若い内から始めましょう」と書籍やインターネットで記事が記載されているのを目にすることもあるかもしれませんが、正にその通りです。相続発生まで時間が長いほど相続対策の方向性も色々と検討することができます。ご病気になられてしまい、将来の相続の発生が近いと感じてからでは、対応可能な対策が限られてしまいます。場合によっては何も対策出来ない結果となる場合もあります。将来の相続に向けて、50代の方でも既に相続の対策をされている方もいらっしゃいますので、一度ご検討してみてはいかがでしょうか。
相続対策といってもご家族の事情や財産状況によって取るべき対策は全く異なります。まずは現状の家族構成や財産状況を確認し、何をすればいいのか検討する必要があります。今回は、様々な相続対策の手法をご紹介させて頂き、代表的なものについて相続対策の効果をご説明させて頂きます。
1.相続対策の種類
相続の対策は、一般的には大きく次の3つに分けることができます。
第一は揉めないようにすることが最優先です。円滑に資産を承継するためには、後継者や財産の引継ぎ先を生前に考えておくことも必要です。せっかく財産を残されてもご家族の関係性が壊れてしまっては意味が無いと思います。また、残された財産が負の遺産となり得るものがあれば、それを生前に整理しておくことも場合によっては必要です。
次に相続税の納税資金の対策です。相続財産の範囲内で相続税のご負担が出来るようにしておくことは重要な要素の一つです。相続税は金銭一括納付が原則であり、例外的に延納(分割払い)、延納が難しければ物納制度がありますが、担保の提供など相続時の手続きが煩雑となります。
最後に相続税の対策です。余計な税金の支払が無いように取れるべき特例や非課税制度等を活用して将来の相続税額を抑えるための対策を検討します。
下記に限定列挙しておりますが、重複して効果があるものもそれぞれの枠内に記載しております。また※が付いたものは、法人オーナー向けになります。
⑴ 円満な資産の承継
・遺言書の作成
財産の承継先が決まっていない場合には、相続発生後に相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で財産の取得者を決めて頂く必要があります。相続人の中に、意思能力の無い方や相続人が海外在住の場合には手続きが煩雑となり、通常の場合より時間が必要となります。遺言書で財産の取得者を決めておくことで遺産分割協議が不要となり、相続手続きがスムーズに行えるようになります。遺言書の種類は自筆証書遺言、公正証書遺言のいずれかで作成することが一般的ですが、法的な不備や無効のリスクを生じさせないためにも、費用はかかりますが公正証書遺言で残された方が安心かと思います。
・民事信託の活用
よく家族信託ということもありますが、簡潔に記載すると財産を所有権と財産権に分けることになります。①元々の財産の所有者を「委託者」、②管理・運営等を託された人が「受託者」、③財産権の所有者を「受益者」といいます。この「受益者」が有する権利を「受益権」といいます。
活用方法は様々ありますが、③の受益者について次の受益者を事前に決めておくことが出来ますので、遺言に近い効果があります。受益者Aさんが死亡した場合には、遺産分割協議なしに受益権をBさんが引継ぐとすることが可能です。
・生命保険金の相続税の非課税枠の活用
死亡保険金については遺産分割協議の対象となりません。保険契約で定められた保険金受取人が保険金を受け取って頂くだけで、他の相続人と話し合う必要はありません。原則的には特別受益や遺留分の対象とはなりませんが、不相当に高額な金額を保険金として特定の相続人を受取人にすると、例外的に対象となる可能性があります。
・名義預金などの整理
名義預金は、原資はご本人様、名義は配偶者やお子様、お孫様名義となっている預金です。名義預金ではなく、贈与をしたと主張するためには、いくつか条件を満たす必要があります。単に資金を異動しただけの場合には、名義預金と認定され、ご相続発生時には被相続人の財産として相続税が課税されます。事前に名義預金等を整理しておくことは将来の相続時には役立ちます。贈与として認識している場合には、贈与金額によっては贈与税の申告を提出しておく必要があります。
・共有不動産の解消
共有不動産の解消については、先代(祖父母等)のご相続の際に、不動産の相続登記が行われていない場合(未登記)などが該当します。遺産分割協議が確定していない未登記の不動産については、各法定相続人がそれぞれ法定相続分相当の持分を所有している共有状態となります。先代の相続当時の遺産分割協議書があればいいのですが、遺産分割協議書がなければ先代の相続当時の法定相続人による遺産分割協議が必要となります。当時の法定相続人が亡くなっていれば、その亡くなった方の法定相続人が遺産分割協議に参加することになります。このような場合、叔父叔母と甥姪の間など、世代が異なる遺産分割協議となりますので遺産分割協議が難航することもありえます。このように問題を後に残さないように、事前に財産を整理しておくことが望ましいです。
・賃貸借契約の整理
賃貸借関係の整理ですが、不動産を借りている場合には契約内容を生前にご確認しておくことが望ましいです。土地の賃貸借は契約の始期がかなり古く、契約書が作成されていない場合や契約内容が更新されておらず、現在の契約内容がよく分からないケースがあります。後の相続人が困らないように、現在の有効な契約内容に基づいた賃貸借契約書を遺しておくことも重要です。
・所有不動産に関する資料の整理・敷地境界について
所有不動産の権利証はほとんどの方は保管されているとは思いますが、それ以外にも購入当時の売買契約書や建築確認資料なども必要となることがあります。固定資産税が課税されていないような山林や原野といった土地については、市役所から固定資産税の納税通知書が届かないこともありますので、所有されている不動産資料については、後の相続人が困らないようにきちんと整理しておくことをお勧めします。
また、隣地との境界についても明らかにしておくことも大切かと思います。既に境界確定しており境界杭があれば問題無いですが、隣地との境界について塀の内側、外側、真ん中どこに境界線があるかを知らせておくことも必要です。
⑵ 納税資金の対策
・贈与(暦年贈与・相続時精算課税制度・非課税制度)の活用
生前贈与は将来の納税資金の準備と相続税を減額する二つの効果が見込めます。おそらく最も皆様が進められている相続対策の一つだと思います。令和6年1月1日以降の暦年贈与財産については、相続開始前7年以内の贈与財産は相続時には相続税の申告書に加算されます。ただし、贈与により財産を取得した人が、相続又は遺贈で財産を取得しなければ、相続税の申告書に加算されません。
また、もう一つの贈与税課税の方式である相続時精算課税制度については、令和6年1月1日以降の贈与は毎年110万円までは贈与税・相続税は課税されませんが、それを超える部分は過去何年前の贈与財産であっても、相続時には全て相続税の申告書に加算されます。相続時精算課税制度は適用を受けるためには要件を満たす必要があり、税務署へ届出書を提出する必要があります。一度相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度へ戻ることは出来ませんので、事前によく検討した上で贈与を行う必要があります。
相続税の減額を考える場合には、孫への贈与や姻族への贈与など相続権が無い方への贈与や相続時精算課税制度の活用を検討することが多いと思います。お子様など相続権がある方への暦年贈与をお考えの場合には、相続開始前7年以内の贈与は相続税が課税されるため、なるべく早く行う必要がありますので、ご注意ください。
・生命保険金の活用
生命保険金については、遺産分割協議が不要であるため、相続発生後すぐに支払を請求することが可能です。預貯金の場合には、相続人全員の合意や遺産分割協議が確定するまでは解約手続きが進みませんので、自由に使用できるまで時間がかかります。このほか、相続人自身で被相続人を被保険者、受取人をご自身とする保険契約に加入することで、所得税の対象(一時所得)にはなりますが、納税資金の準備として活用することも可能です。
・所有不動産の整理(保有・売却)
不動産の相続税評価は時価より低いことが一般的ですが、逆の場合も例外として出てきます。所有不動産の時価と相続税評価額や各不動産に利用状況を確認し、保有又は処分すべき不動産を検討します。資産管理会社を所有されている場合では、外部ではなく資産管理会社へ売却して納税資金を生み出すことも検討することもあります。
・賃貸用不動産の建築
賃貸用不動産を建築することは、相続税を大幅に軽減する効果もあります。建物の相続税評価額は基本的に固定資産税評価額で評価しますが、固定資産税評価額は実際の建築コストよりかなり低い金額で評価されます(建築する建物により幅はありますのであくまで参考ですが、50%前後くらいが多いと思います)。要因としては、実際の建築コストには業者の利益も含まれていたり固定資産税評価額には反映されない経費が含まれていることにあります。
例えば、1億円で建設した場合の建物の固定資産税評価額が5,000万円とすると、相続税評価額は自分で使用している場合には5,000万円、収益不動産として貸している場合には借家権部分の30%が控除されますので、3,500万円(5,000万円×70%)で評価します。よって、現金で所有するより評価額は圧縮されますので、結果相続税の負担を抑制することができます。
しかし、建物を建築することで生じるリスクもありますので、メリット・デメリットをよく検討する必要があります。
・農地の納税猶予制度の検討
農業を営んでいた被相続人等から農地等を承継した相続人が、農業を引継いだ場合に一定の条件を満たすことで、農地等の相続税評価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税額の納税が猶予される制度です。免除ではなく、猶予される制度ですので、猶予される要件を満たさなければ猶予は取り消され、納税が発生します。①被相続人、②相続人、③農地等、それぞれ要件に該当するか確認する必要があり、また、猶予が取消されるリスクも認識したうえで適用を検討する必要があります。
・非上場株式等の納税猶予制度の検討※
・退職金の活用※
⑶ 相続税の対策
・贈与(暦年贈与・相続時精算課税制度・非課税)の活用
・扶養義務者間の資金援助
扶養義務者間の資金援助とは、親子間での生活費の援助や祖父母がお孫様の学費を直接学校等へ支払っている場合には贈与税は非課税となります。必要な金額を必要な都度渡す必要がありますので、一括して渡すと非課税とはならないので注意が必要です。教育資金を一括して渡す場合には、別の非課税制度を適用すれば非課税となります。贈与税の非課税制度の代表的なものは次の通りです。
●直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税
●直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税
●直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税
●贈与税の配偶者控除(婚姻期間が20年以上)
●特定障害者に対する贈与税の非課税
・生命保険金等や退職手当金等の相続税の非課税枠の活用
生命保険金と退職手当金等の非課税枠は500万円×法定相続人の数が非課税金額となります。仮に法定相続人が3名だとすると、それぞれの非課税枠は1,500万円ずつとなります。生命保険金等と退職手当金等にそれぞれに非課税がありますので、上手く活用すれば節税効果は大きくなります。
生命保険の活用の方法としては、契約者・保険料負担者は相続人、被保険者を被相続人とする方法もあります。この場合、相続人に対して所得税が課税されますが、一時所得として課税されます。一時所得は、(収入金額-必要経費-50万円)×1/2した金額を他の所得と合算して所得税を計算しますので、税負担を抑えれる点がメリットです。
・養子縁組の検討
養子縁組を行うと、法定相続人が1人増える形になりますので、相続税を計算する際の基礎控除額が600万円増え、上記の非課税枠も500万円増える効果があります。ただし、節税目的のみの養子縁組は税務上否認されるリスクもあります。また、養子も遺産分割協議に参加する必要があるため、将来的に揉めないためにも養子縁組の判断は慎重に行いましょう。
・仏壇・仏具等の祭祀財産の購入
仏壇・仏具等の祭祀財産は相続税は非課税となります。事前に購入されている方は稀かと思いますが、預貯金で残しておくよりは事前に購入しておくことで税負担は軽減されます。
・小規模宅地等の適用の検討
小規模宅地等の特例の制度の内容は、簡単にいうと被相続人等が住んでいた家を配偶者又は同居親族(二次相続の場合は別居親族も可能性があります)が取得した場合には、土地の評価額が330㎡まで80%減額される特例です。貸している土地や、事業を行っている土地も特例の適用の対象となりますが、ここでは一番多い自宅の場合のみご説明しておきます。同居の判定が難しい場合も多く、介護のための一時的な仮住まいなどは同居と認められないことが多いと思います。住民票は被相続人と同じにしておく必要もありますし、郵送物も被相続人の住まいに直接届くようにし、起居を共にする等の実態が必要になります。
・地積規模の大きな宅地の適用の検討(利用単位の確認)
地積規模の大きな宅地の適用については、三大都市圏内については500㎡、それ以外の地域では1,000㎡以上の住宅開発が可能な土地が対象となります(細かい要件は割愛させて頂きます)。効果しては評価額が2割以上減額する効果があります。この面積の判定基準ですが、宅地の場合は利用の単位となっている1区画の宅地ごとに評価します。被相続人の所有面積で判断しない点に注意が必要です。
例えば、三大都市圏以外に所在する1筆の土地面積が1,000㎡以上だったとしても、400㎡は自宅、800㎡は月極駐車場として利用している場合には、それぞれ分けて評価していきますので地積規模の大きな宅地の適用は受けれません。このように、全体を一つとして評価するか又は別々に評価するのかによって評価額に差が出ることがありますので、事前に土地の利用状況を確認しておく必要があります。
・借入による賃貸用不動産の建築
・固定資産の交換特例の活用
・貸付金の資本金への振替(DES・疑似DES)※
・従業員持株会の活用※
・株式交換・株式移転等の活用※
2.まとめ
代表的な内容のみ、補足説明をさせて頂きましたが、全ての対策を検討する必要はございません。現在の財産状況を確認して頂き、相続税額の見込額や納税後の手取り額を認識して頂くことが第一歩です。次に各対策を実行する前と後でどう変化するかを検証する流れとなります。ご自身で進めるのが難しいこともあるかと思いますので、ご興味がある方は税理士等の専門家へ相談しながら進め、失敗が無いように対策しておきましょう。
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