借地権を返還した場合の課税関係について

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借地権を返還した場合の課税関係について

借地権を返還した場合の課税関係について

2024/03/06

 前回は借地権を設定した場合の課税関係についてご紹介させて頂きました。今回は借地権を地主に返還した場合の課税関係について、ご紹介したいと思います。

 そもそも借地権の返還については、借地権を譲渡した場合と考え方は同じになります。そのため、無償で返還すると、無償で譲渡した場合の取扱いと同様に課税されてしまうという点が注意が必要です。また、借地権とはどういったものかについては、過去に借地権設定時の課税関係でご紹介させて頂きましたので、そちらをご参照頂ければ幸いです。

1.借地権の返還時の取引慣行

 借地権の取引慣行がある場合においては、借地権を外部に売却することが可能です。そもそも借地権が売買の対象とならなければ、借地権に価格が発生することは基本的にありません。需要者が1人もいない場合には、その借地権に経済的な価値を見出すことは出来ないため、そのような借地権価額は0円になると考えられます。また、借地権には物権である地上権と債権である賃借権の2つの種類の借地権があります。

物権である地上権の場合には、地主の承諾が無くても売却することができます。債権である賃借権の場合には、地主の承諾又は裁判所の許可が無ければ借地権を売却することができませんが、地主へ承諾料等の一時金を支払うのが一般的です。このような一時金のやり取りについては、地主側からすると借地人が変わることにより様々なリスクを享受することになります。そのため、承諾料の支払が無ければ通常は地主の許可は得られないかと思います。参考に、一時金のやり取りが発生するケースとしては次のような場合があります。

・更新料・・・契約期間が満了した際に支払う更新料の金額

・条件変更承諾料・・・建物の用途を非堅固建物の所有目的から堅固建物所有目的に変更する場合の承諾料

・建替承諾料・・・老朽化した建物を建て替える際の承諾料

いずれも借地期間が延長するような場合には地主に不利益が生じるため、その不利益を補填するためにも一時金のやり取りが慣行化しております。

 地主は借地契約が継続する限り、地代を徴収する権利を保有していますが、土地を使用することは出来ません。借地権が返還されると、当然地主は土地を自由に使用することができ、土地を使用する権利が復帰することになります。その権利に対して地主は借地人に対して何らかの対価を支払うことが妥当と考えられております。借地権の返還時において、地主は借地人に対して「立退料」を支払う取引慣行があり、税務上の課税関係もこの取引慣行があることを基準に課税関係が定められております。適正な「立退料」の支払の有無に応じて課税関係が異なり、適正な立退料の支払が無ければ、借地人に対して借地権の設定時と同じような課税が行われます。

2.適正な立退料の支払があった場合の課税関係

 適正な立退料の支払があった場合には、個人借地人と法人借地人で取扱いはやや異なりますが、いずれも借地権設定時において認識した「借地権」という資産を売却したと考えます。しかし、借地権の対価ではなく、損失補償を目的とした支払の場合には譲渡とは考えないケースも出てきますので取扱いは注意が必要かと思います。

<地主側>

法人地主 個人地主

※1 土地の取得費に加算

※2 土地の取得費に加算

 

※1 借地権設定時でご紹介した土地の地価の1/2超の権利金の支払がある場合には、土地の帳簿価額が一部損金算入されます。この取扱いを受けているかどうかによって処理方法が異なります。この規定の適用を受けていない場合には、立退料の支払額を土地の帳簿価額に加算します。

(土地)XXX (現金預金)XXX

借地権設定時において、土地の帳簿価額の一部の損金算入の適用を受けている場合には、その損金算入額を土地の帳簿価額に加算します。これは、借地権の返還によって土地が借地権設定前の更地の状態に戻ったということを前提に考えられております。立退料の支払額よりも損金算入額が大きい場合には差額が益金として課税されます。過去の損金算入額が1,000、立退料の支払額が800とすると差額200が課税となります。

(土地)1,000 (現金預金)800

         ( 益金 )200

立退料の支払額が土地の損金算入額より大きい場合には、土地の帳簿価額に加算するのみとなります。

※2 個人地主については、借地権部分を新たに取得したと考えます。所得税法では、不動産の売却について所有期間に応じて、長期譲渡所得又は短期譲渡所得に区分しておりますので、底地部分と借地権部分について、それぞれで所有期間を考慮する必要があります。

<借地人側>

法人借地人 個人借地人

立退料の益金算入と

借地権の帳簿価額の

損金算入

借地権の譲渡対価

 法人借地人では通常の土地を売却した場合と同様のイメージを持って頂くと分かりやすいと思います。受け取った立退料と資産として計上した借地権との差額が実質的には法人税等の課税の対象となります。

 個人借地人は、土地の売却と同様に分離課税の譲渡所得となります。借地権設定時からの保有期間によって長期・短期の判断を行います。借地権の譲渡は土地の譲渡と同様に取り扱われるため、要件を満たせば不動産を譲渡した場合の各種特例の適用が可能です。個人地主で多いのは、自宅として使用しているケースだと思いますので、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例(措法35)等の特例も適用可能となります。

3.適正な立退料の支払がない場合の課税関係(無償返還の場合)

 借地権を設定した場合と同様に、借地権の返還時においても適正な対価の支払が無ければ課税関係が発生します。この場合、課税の対象となるのは借地人に対して何らかの課税が行われます。借地権設定時においては、本来地主が権利金を収受すべきであるところ、何ら対価の支払を受けなかった場合には地主から借地人に対して寄付(贈与)等があったと考えます。

 借地権返還時においては、借地権設定時とは逆に、借地人が外部へ売却した場合には得られたであろう借地権相当額の立退料を地主に対して寄付(贈与)等したと考えます。法人借地人の場合には、貸主が法人か個人で取扱いは変わりません。一方、個人借地人の場合には、貸主が法人貸主と個人貸主で取扱いが異なりますのでご注意ください。前提として、対価の支払が無い無償の場合を想定しております。

<借地人側>

①法人借地人 個人借地人
②法人地主 ③個人地主
寄付又は給与等 みなし譲渡

個人地主へ

贈与税課税

 

 ①法人借地人については、借地権の価格相当額を地主へ寄付等したものと考えます。

相手が法人地主の場合には寄付金と考え、寄付金については損金算入限度額を超える部分について法人税等が課税されます。

個人地主の場合には、その法人の関係者である役員や従業員の場合には給与があったものとして課税が行われます。

 個人借地人のうち貸主が②法人地主の場合には、時価で譲渡したものとみなして、譲渡所得税が課税されます。これは、個人が所有している資産を法人へ無償又は著しく低い価額(時価の1/2未満)で譲渡した場合のみなし譲渡(所得税法59条1項)の規定が適用されます。

 法人地主側では借地権の設定時において、土地の帳簿価額の損金算入の適用を受けている場合には、その損金算入額をもとに戻すのみに留めております(法人税基本通達13-1-16)。

 一方、相手が③個人地主の場合には、借地権相当額の経済的利益が無償で地主に移転したと考え、地主に対して贈与税が課税されます。

4.借地権課税が行われない場合

 これまでは借地権課税が行われる場合の取扱いについて記載してきましたが、必ずしも借地権相当額の立退料の支払が無ければ課税されてしまうわけではありません。例外的に借地権課税されないケースが挙げられております(法人税基本通達13-1-14)。

(1) 借地権の設定等に係る契約書において将来借地を無償で返還することが定められていること又はその土地の使用が使用貸借契約によるものであること(土地の無償返還に関する届出書が所轄税務署長に届け出られている場合に限る。)

これは税務上借地権価額が0円の評価額となっている場合です。「土地の無償返還に関する届出書」の提出がある場合のほか、借地権設定時の課税関係でご紹介した「相当の地代方式」による相当の地代が支払われている場合も含みます。

(2) 土地の使用の目的が、単に物品置場、駐車場等として土地を更地のまま使用し、又は仮営業所、仮店舗等の簡易な建物の敷地として使用するものであること。

建物の所有目的ではないため、借地借家法の適用はありません。借地権は借地借家法により借地人が強固に保護され、契約期間も長期間となります。その契約期間中に、土地の地価が上昇し現行の地代が割安となっている場合には、その借地権を購入したいと考える土地の需要者は一定数存在すると考えるのが一般的かと思います。このような第三者へ売却することが可能な借地権以外の賃借権については、そもそも権利金の授受の支払慣行が無いと考えられますので、課税関係は生じないと考えます。

(3) 借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により、借地権が消滅し、又はこれを存続させることが困難であると認められる事情が生じたこと。

旧法の借地権(平成4年7月31日以前の借地契約)では契約期間の定めが無ければ、建物が朽廃により借地権は消滅するとされております。このような場合には借地権が消滅しておりますので、無償返還は当然認められております。建物の朽廃については判断が難しいと思いますが、私見ですが元々の建物の用途に供することが出来ない程ボロボロの状態、朽廃と考えてよいのではないかと思います。

5.まとめ

 これまで記載させて頂いた借地権には、定期借地権は含まれておりません。定期借地権は、契約期間が満了すれば、地主に借地権が返還される契約が前提ですので、立退料の支払など発生しないのが当然ですので無償返還でも課税関係は生じないと考えられます。

 地主側の立場からするとこれまで低廉な地代で推移してきた背景があるにもかかわらず、借地権の返還時において対価を支払うというものは、負担感が多いと思います。借地権の設定時に、適正な権利金の授受が行われていれば、それを返還するイメージですのでそこまでの抵抗感は無いかと思います。

 しかし、戦後間もない頃から続く契約等の場合には権利金のやり取りが無い場合や不明であることが多いと思います。このような場合に、適正な立退料の支払が行われないということも多いと思いますので、借地権の返還時の取扱いについて、税負担のこともよく考慮した上で、地主と借地人との間でお話をして頂ければと思います。適正な立退料の支払額の査定など、判断が難しい部分もありますので、ご不明な点があれば税理士等の専門家にご相談頂くのがいいのではないかと思います。

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