名義預金と認定されないため、生前贈与の痕跡を残しましょう。
2023/01/04
令和5年の税制改正の中で、生前贈与について大きな改正がございました。相続税の申告書を作成させて頂く機会は多いのですが、現金預金の贈与について贈与契約書が作成されていなかったり、贈与税の申告書が作成されていないケースが見受けられます。このような場合には、相続税の申告の際に名義預金と認定され、結果として相続税が課税されるケースがあります。税務調査では、経験上圧倒的に現金預金の漏れや名義預金について申告漏れを指摘されることが多いので非常に重要な論点です。
「名義預金」とは奥様やお子様、お孫様名義等の被相続人名義以外の預金口座の中に、被相続人のお金が含まれている預金口座などをいいます。
例えば、生前に被相続人の預金の大半を他の親族名義の預金口座に異動させている場合に、被相続人名義の財産だけが申告の対象とすると、相続税が課税出来ないことになります。相続税の申告ではこのような行為を認めておらず、被相続人名義の財産だけでなく、「名義預金」と認定された親族名義の預金についても相続税の課税対象とされます。つまり相続税の申告の対象となる財産は、①被相続人名義の財産と②被相続人が原資を負担した他の名義人の財産額を申告することになります。名義はあくまでも参考ということです。
名義預金と認定されるケースでよく見受けられるのが、奥様が専業主婦なのに、預金残高が多いケースです。奥様が相続で財産をもらったなどの理由があれば問題ないのですが、ご主人様から生活費として預かったお金を上手にやりくりし、預金残高が増えていった場合には高い確率で名義預金と認定されてしまいます。このような場合には奥様はご主人の預金を預かっているのみと判断され、奥様名義の預金についても相続税が課税されてしまいます。
名義預金と認定されないためには、きちんと生前贈与の手続きを行う必要がありますので、そのポイントをご紹介いたします。
贈与は民法第549条では次のように規定されております。
「贈与は、当事者の一方がある財産権を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」
贈与を成立させるためには、民法に記載があるとおり、財産をもらう方の「財産をもらいました」という意思表示が必要となります。贈与契約書の作成は贈与者が受贈者が知らないところで作成することも可能であるため、贈与契約書があればそれだけで大丈夫というわけではありません。
贈与を成立させ名義預金と認定されないためには、次の事項についても考慮する必要があり、総合的に判断していくことになります。ポイントは贈与の事実を残しておくことと、形式だけではなく実質的にも預金の管理・処分・運営する権利を移転することが大事となります。
- 贈与された財産の管理・処分は受贈者が行っているか。
- 親族名義の預金通帳作成時の印鑑は被相続人名義の預金通帳と異なっている印鑑かどうか。
- 贈与税の基礎控除額110万円を超える場合に、贈与税の申告書を税務署へ提出し、贈与税を支払っているか。
- 金融機関に保管されている書類の筆跡が被相続人のものかどうか。
- 現金の贈与の場合には預金通帳に記録を残しているか。
贈与によりもらった財産については、受贈者が自由に処分できるのが通常です。①預金通帳やキャッシュカードを贈与者が所有している場合には、財産をもらった人は自由に使用することが出来ない状態となります。そのため実質的には所有権は移転していないと判断され、名義預金と認定されてしまう可能性が高いです。
②子や孫名義の預金口座の異動内容が決まった金額の入金のみの口座や、③収入金額に見合わない預金残高の増加が見られる通帳についても、注意が必要です。対応策としては、預金通帳等を渡して頂くことが必要ですし、受贈者が預金のまま保有するのではなく、ご自身の保険料の支払に充当するとか有価証券等に投資して頂くなど、他の資産に組み替えて頂くことで受贈者が管理していると言える状態となります。保険料相当の金銭の贈与を行い、受贈者が契約書となり保険に加入することもありますが、その場合は受贈者が保険契約の内容を把握することも大切です。
銀行届出印は被相続人名義の預金通帳と親族名義の預金通帳は異なる印鑑を使用して頂くことも大事です。同じ銀行印を使用している場合には、親族名義の口座は被相続人が開設し、預金残高についても被相続人が原資のお金と判断される可能性が高いです。仮に相続後に銀行印だけを変更しても、銀行には銀行印の変更の履歴は残りますので注意が必要です。
筆跡についても、例えば夫婦で定期預金を申し込む際の書類の筆跡が、両方とも被相続人の筆跡の場合などは名義預金と疑われやすいケースとなります。実際にこの筆跡が同じケースで、奥様の定期預金の原資がご主人だったということで、名義預金として認定されてしまうことも多いと思います。
預金通帳に記録を残すことについては、預金を下ろしただけでは後から振り返った際に本当に贈与のための出金だったかどうかの確認が取りにくいため、受贈者に振込むことにより受贈者の名前を残し、出金の用途を明らかにすることが望ましいです。
これまでは預貯金について記載させて頂きましたが、これが株式や保険の場合にも同じ話となります。例えば、保険契約者が配偶者やお子様であったとしても、保険料の支払が被相続人であれば、その保険契約についても亡くなった日時点の解約返戻金相当額(仮に保険契約を解約したと仮定した場合の払戻金額)で被相続人の相続財産として申告に計上しなくてはなりません。
まとめ
以上のことをまとめると、現金の贈与の場合には①贈与契約書の作成、②通帳に記録を残す、③贈与税の申告・納付、④管理処分をする権限を財産をもらった人に移転させるといった対応をして頂くことが必要となります。生前贈与は、相続対策として有効な方法の一つです。身内だから大丈夫ではなく、身内だからこそしっかりと贈与契約書という書面に残して頂くことも重要な事項となります。作成された契約書については、贈与者がお亡くなりになられた際には、相続時に有用な資料となります。万が一に備えて、作成された契約書は必ず保管して頂くことが重要となります。
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