小規模宅地等の特例の活用について
2024/04/11
小規模宅地等の特例とは、被相続人の①居住用として使用していた宅地、②事業用として使用していた宅地、③人に貸していた宅地等について、一定の限度面積まで宅地等の評価額から80%(上記①及び②)、又は50%(上記③)減額される特例です。つまり、小規模宅地等の特例の適用を受けると土地については実質的に課税される価額は20%又は50%となります。土地の評価額は一般的には数千万円単位の評価額となりますので、小規模宅地等の特例の適否は相続税額に大きな差を生み出します。事前に小規模宅地等の特例の要件を確認することで、現状の利用状況のままで問題無いのか、また適用を受けるためにはどのようにすれば適用を受けることができるのか検討しておくことも相続対策の一つです。相続財産が基礎控除額以下の相続税額が発生しない方については、小規模宅地等の特例について考える必要はございません。今回は、小規模宅地等の特例のおおまかな要件について確認したいと思います。ご利用状況によっては該当するかどうか判断が難しいケースもありますので、そのような場合には税理士等の専門家にご相談頂くことをおすすめします。
1.小規模宅地等の特例の要件
個人が、相続や遺贈によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族(「被相続人等」といいます。)の事業の用または居住の用に供されていた宅地等(土地または土地の上に存する権利をいいます。以下同じです。)のうち一定の要件を満たす場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分(「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、下記の「小規模宅地等の適用要件」の表に掲げる区分ごとにそれぞれに掲げる割合を減額します。
生計を一の判断も難しいところですが、下記の所得税法基本通達を参考に判断することが一般的です。よく「財布が一つ」で生活をしていれば生計一に該当すると簡便的な判断がなされます。親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。別居している場合には、定期的に仕送りをしている実績等が必要となります。
※ 生計一親族の判断(所得税基本通達2-47参照)
法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
<小規模宅地等の適用要件>
相続開始の直前における宅地等の利用区分 |
限度面積 |
減額 割合 |
取得者ごとの要件 |
①相続人等の居住(自宅)の用に供されていた宅地等 ※ 相続開始前に老人ホーム等に入所していた場合には別途要件がございます。 |
330㎡ |
80% |
配偶者が取得した場合は無条件で適用可能です。 |
同居親族が取得した場合には、申告期限まで①居住し、②宅地等を保有する必要があります。申告期限までに売却した場合には要件を満たさないので注意が必要です。 |
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別居親族が取得した場合には、主に次の要件を満たす必要があります。(通称:家なき子の特例) •被相続人に配偶者及び同居法定相続人がいないこと •相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の3親等内の親族又は特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと •取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと •申告期限まで保有していること(居住要件はありません) |
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②被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 |
400㎡ |
80% |
被相続人等の事業を申告期限までに引き継ぎ、事業を営んでいる必要があります。申告期限までに売却した場合には、適用できません。 ※ 相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は適用されません。相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等であっても、一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地等については、小規模宅地等の特例を適用することができます。 |
③被相続人等の貸付事業用の宅地等 (例:不動産賃貸業等) |
200㎡ |
50% |
被相続人等の貸付事業を申告期限までに引き継ぎ、貸付事業を営んでいる必要があります。申告期限までに売却した場合には、適用できません。 ※ 相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は適用されません。相続開始までに3年を超えて継続的に特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のものをいいます。「準事業」とは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものをいいます。)を行っていた場合は、相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地等にも小規模宅地等の特例を適用することができます。 |
上記①~③については、それぞれ限度面積が設けられております。①及び②は完全併用が可能となりますので最大730㎡まで80%減額されます。③の貸付事業用と①又は②の併用は小さい方の200㎡に併せるイメージで次のような算式で限度面積を計算します。
<限度面積>
①居住用の地積×200㎡/330㎡+②事業用の地積×200㎡/400㎡+③貸付事業用の地積≦200㎡
適用対象地が複数ある場合には、限度面積の範囲内で一番税負担が低くなるように選択することが一般的です。どの宅地から優先的に適用を受けるかは自由に選択することが出来ますので、宅地の取得者が複数いる場合には、各相続人間での話し合いも必要となります。
小規模宅地等の特例の要件を大きく分類すると①被相続人の利用状況、②取得者の要件の2つに分類されます。実際の利用状況については特に判断に迷うことが多いです。被相続人の居住用として利用していた宅地等に限定して、いくつかの例を記載させて頂きます。
例えば、被相続人のお住まいが2か所ある場合はどのようになるか考えてみましょう。この特例は、複数お住まいとして利用している宅地があったとしても、全ての宅地について適用を受けることはできません。被相続人が主としてその居住の用に供していた一の宅地等に限られております。よって、生活の本拠として使用していた家屋の敷地部分について小規模宅地等の特例が適用できるため、2カ所あるお住まいのうちどちらの宅地が適用可能なのか判断しないといけません。明らかにどちらか一方のみに偏った利用であれば判断は容易かと思いますが、ほとんど同じくらいの利用となると、判断に迷うと思います。このような場合には、郵送物の送付先や公共料金の利用状況などを総合的に考慮して判断していく必要があります。
次に「同居」の認定が難しいケースがあります。形式的には、住民票の住所が同じであっても実態が「同居」でなければ、小規模宅地等の特例を適用することはできません。「同居」は、相続の開始の直前において被相続人が居住の用に供していた家屋で被相続人と共に起居していたものとされております。被相続人(親)の自宅の近くに相続人(子)の自宅がある場合に、療養看護のために被相続人の自宅に毎日行っていたとしても、それだけで同居と認められることは困難です。「同居」と判断するためには、相続人の郵送物の送付先や建物の構造や設備、入居の目的、相続人の保有家屋の有無などを総合的に判断することになります。
上記とは逆に住民票の住所は異なるが、実態は同居と同様の場合も考えられます。小規模宅地等の特例を受けるためには、同居する意思表示として、形式的な要件である住民票の住所はまず変更しておきましょう。
最後に二世帯住宅の場合について触れておきます。前提として被相続人の所有する2階建ての家屋のうち、1階が被相続人(父)の居住用、2階が相続人(子)の居住用として利用しているとします。この場合、家屋の登記の仕方によって被相続人の居住用部分の範囲が異なります。具体的には分譲マンションでよく見られる「区分所有建物である旨の登記」がされているかどうかです。1階部分と2階部分をそれぞれ独立して利用するということで家屋が「区分所有建物である旨の登記」がされている場合には、1階部分のみが被相続人の居住用ということになります。この場合、被相続人は2階に住んでいる相続人と同居していないことになり、要件を満たさないことになります。一方、「区分所有建物である旨の登記」がされていない場合には、内部から1階と2階を往来出来ない構造となっていたとしても、家屋全体が被相続人の居住用部分と判断します。被相続人は1階及び2階に居住していたと考えると、相続人と同居していることになりますので、小規模宅地等の特例が可能となります。
2.小規模宅地等の特例の事前対策について
小規模宅地等の特例を有効に使用するためには、将来の相続に備えて上記要件を満たすように利用状況を整えておくことが必要です。小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、上記の要件以外にも遺産分割協議が確定していなければ適用を受けることができません。相続人間で争いとなってしまうと、各相続人が法定相続分に応じた財産を取得したものと仮定して相続税の申告(未分割申告)をすることになりますが、小規模宅地等の特例の適用はありません。しかし、後に遺産分割協議が確定すれば小規模宅地等の特例の適用は可能です。遺産分割協議が確定した段階で更生の請求や修正申告によって相続税の精算を行います。
将来、小規模宅地等の特例の適用を受けるため、未分割の状態での相続税の申告書に併せて「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を税務署に提出しておく必要があります。
遺産分割協議を円滑に進めるために、生前に遺産の承継先を決めることも必要な場合があります。税負担を下げるという点で考えると、次のような対策も事前に行うことは有効かと思います。
<事前対策の例示>
- 被相続人と同居することや家なき子の特例の検討。
- 土地の単価が高い場所への住み替えや買換え。
- 駐車場として貸付している場合、アスファルト舗装やフェンス等の構築物を整備しておく。
上記1.については要件を参照頂き、上記2.及び3.の2つを補足させて頂きます。
上記2.土地の単価が高い場所への買換えについてですが、下記の具体的な数値を見て頂ければ分かりやすいと思います。
<ケース1>
20万円/㎡、地積200㎡、居住用の小規模宅地等の特例の適用の適用有り
・土地の評価額 20万円×200㎡=4,000万円
・評価減の金額 4,000万円×80%=▲3,200万円
・土地の課税価格 4,000万円-3,200万円=800万円
<ケース2>
30万円/㎡、地積200㎡、居住用の小規模宅地等の特例の適用の適用有り
・土地の評価額 30万円×200㎡=6,000万円
・評価減の金額 6,000万円×80%=▲4,800万円
・土地の課税価格 6,000万円-4,800万円=1,200万円
ケース1と2を見比べて頂けますと、土地の単価が高い方が小規模宅地等の特例の適用による減額金額が大きいことが分かります。当たり前の話にはなりますが、面積に制限がかかっておりますので、土地の単価が高い宅地について適用を受けることで、税効果がより大きくなっていく仕組みとなります。
上記3.についてですが、小規模宅地等の特例の適用の前提として、建物又は構築物の敷地である必要があります。更地のままでは適用を受けることはできません。注意点としては、駐車場等についてアスファルト舗装や砂利を敷き詰めたりせず、青空駐車場のまま貸しているケースもあると思います。このような場合には、構築物の敷地には該当しませんので、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。駐車場として貸している宅地に小規模宅地等の特例の適用を受けたいということであれば、事前に構築物を設ける必要があります。
3.まとめ
国税庁が公表しております、「令和4年分相続税の申告事績の概要」を参照すると、令和4年分の死亡者数は1,569,050人、そのうち相続税の申告書の提出したのが150,858人(38,280人は相続税額は0円の申告)ですので、課税割合は9.6%となっております。令和4年の被相続人の相続財産の構成比をみると、土地は32.3%、家屋は5.1%占めており、不動産が全体の約4割弱を占める結果となります。市街地の土地の地価は年々上昇しているため、今後も不動産の占める割合は高い水準で推移することが予測されます。
こうした背景を踏まえると、今後不動産に対する相続の対策の需要も継続して必要になると思います。小規模宅地等の特例について、居住用を中心に概要を記載させて頂きました。被相続人が老人ホームに入居しているため自宅が空家となってしまっている場合や、建築途中に相続が発生してしまった場合のほかにも、判断に迷うケースも多々出てくるかと思います。
小規模宅地等の特例の適用の適否も含めて、不動産に関する相続対策は影響が大きいので税理士や不動産鑑定士等の専門家にご相談頂いて進めて頂くのが失敗しない相続対策の一歩かと思います。
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