最高裁判決で財産評価基本通達に基づく評価額が不適切?富裕層の節税に警鐘!

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最高裁判決で財産評価基本通達に基づく評価額が不適切?富裕層の節税に警鐘!

最高裁判決で財産評価基本通達に基づく評価額が不適切?富裕層の節税に警鐘!

2023/06/26

 今回は、不動産の評価額について、最高裁判所で争われた内容をご紹介させて頂きたいと思います。今後、不動産を活用した相続税の対策方法にも影響する重要な判決ですので、不動産を活用した相続対策をご検討される方には是非とも知っておいて頂きたい内容です。

 相続税額の計算で使用する不動産の評価方法については、以前の記事でご紹介させて頂きましたので、詳細は割愛させて頂きますが、財産評価基本通達に基づき計算することが原則的な取扱いとなっております。今回の判決は、財産評価基本通達(以下「評価通達」とする。)に基づいた評価額が不合理であり、不動産鑑定評価基準に基づく評価額が合理的と判断された判決であり、何故このように判断したのか示されているため、その考え方を理解しておく必要があると思います。

1.事案の概要(最高裁 令和4年4月19日判決)

 

<時系列>

日付
内容
平成21年1月30日
甲不動産を8億3,700万円で購入(信託銀行より6憶3,000万円借入)
稟議書に相続対策のためとの表記あり
平成21年12月21日
相続人から4,700万円借入
平成21年12月25日
乙不動産を5憶5,000万円で購入(信託銀行より3憶7,800万円借入)
稟議書に相続対策のためとの表記あり
平成24年6月17日
被相続人が94歳で死亡
平成25年3月7日
相続人が乙不動産を5憶1,500万円で第三者に売却
平成25年3月11日
相続税額0円で相続税申告書提出(課税価格2,826万円)
平成28年4月27日
不動産鑑定評価基準に基づく評価額により更生処分
(課税価格8憶8,874万円、相続税額2憶4,049万円)

 上記の時系列を見て頂きますと、いくつかポイントとなる点がございます。まずは、不動産を購入した時期と購入原資です。

 お亡くなりなる3年ほど前の90歳という高齢で甲不動産及び乙不動産を購入しております。平均余命を超えており、いつ相続が発生しても不思議ではない時期に不動産を購入しており、また、購入原資についても借入金により不動産を購入しており、被相続人が生存中に返済することは物理的に困難な状況です。

 さらに、乙不動産については、ご相続が発生してから申告までの間に売却をしている点も、判断のポイントの一つとなります。

項目
甲不動産
乙不動産
合計
①相続税評価額
(納税者評価額)
2憶4万円
1憶3,366万円
3億3,370万円
②鑑定評価額
(課税庁評価額)
7億5,400万円
5億1,900万円
12億7,300万円
③比率(①÷②)
26.53%
25.75%
26.21%
購入金額
8億3,700万円
5憶5,000万円
13億8,700万円

 上記の表を見て頂くと、納税者の評価額と課税庁の評価額では大きな乖離がございます。

まずは、①の相続税評価額は評価通達に基づき評価を行っていますが、土地を評価をする際に採用する路線価は地価公示価格(時価)の概ね8割で設定されているため、一般的には相続税評価額<時価の関係となることが多いです。

 家屋の評価については、原則として相続税評価額は固定資産税評価額と同額となります。前提となる固定資産税評価額は、建築コストの概ね50%くらいの評価額となりますので、固定資産税評価額と時価の乖離は大きくなります。

 不動産鑑定評価基準に基づく鑑定評価額は、不動産の適正な価格を示した価格であり、いわゆる客観的な交換価値である時価であるため、相続税評価額<不動産鑑定評価額の関係性となることが多いです。

2.今回の事案の争点

 

 判決では不動産の評価額が争点となっており相続税法では、財産の評価額について次のように規定しております。

■相続税法22条

相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

 ここでいう時価は、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価通達の定めによって評価した価額による。」とされており、時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されます。今回納税者が採用した評価方法は、評価通達に基づく評価額ですので、評価方法そのものが誤っているわけではございません。

 しかし、評価通達6項(通称:総則6項)では、「この評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」とされており、課税庁はこの定めに基づいて不動産鑑定評価基準に基づく評価額が当該不動産の客観的な交換価値であると認められるから、これを基礎とする更生処分も適法と考えております。

 争点は、評価通達に基づく価格が著しく不適当かどうかに該当しているか否かであり、その考え方が判決文に記載されております。

3.判決文

 

 租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額価を上回る額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。

 もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。

 これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。

 もっとも、本件購入・借入れが行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額 は、6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件 各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2,826万円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になるというのであるから、上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。

したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。

(出典:最高裁HPより)

 この判決文の中でのポイントは、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に該当する場合には、平等原則に反せず、不動産鑑定評価基準に基づく価格による処分が違法ではない点です。

 次のような事情が「租税負担の公平に反するというべき事情」に該当していると考えられ、評価通達に基づく価格が不合理と判断される可能性があります。

<判断ポイント>

1.相続税の負担が著しく軽減される

2.相続税の負担の軽減を意図して行っている。

3.行為をしない又はすることができない他の納税者との間に著しい不均衡を生じさせる。

 これらに該当するかどうかは、相続税額の減額金額・不動産の購入時の被相続人の年齢・購入原資・不動産の利用状況や購入目的等を総合的に判断し、判断すると考えられます。

4.まとめ

 

<今回のケース>

 これまでに述べた点を今回の判例に当てはめると、次のように整理できます。

・甲不動産及び乙不動産を購入する前は課税対象の財産額が6憶円を超えていたが、甲不動産及び乙不動産を購入した結果相続税額が0円となり、著しく相続税額が軽減されている。

・お亡くなりになる直前に甲不動産及び乙不動産を購入し、申告期限前に乙不動産の売却を行っており、銀行の稟議書に相続対策のためという記載もあることから、相続税の軽減を意図して行ったことが明らかである。

・90歳という高齢で、銀行借入により高額の不動産を取得することは、一般の納税者には難しい。

 以上により、評価通達による価格が他の納税者との間に著しい不均衡を生じさせると考えられ、不動産鑑定評価基準に基づく価格でも違法ではないと判断されています。

 今後の不動産を活用した相続税の対策については、慎重な判断が求められると考えられます。お亡くなりになる直前の不動産の購入については、相続税額の軽減目的と判断される可能性が高くなりますので、相続対策ではない別の購入理由が必要と思います。例えば、既存の建物より収益性が高い不動産への買換えや、老朽化した建物の建替など合理的な理由があれば、評価通達に基づく評価額によっても租税負担の公平に反するとは言えないと考えられます。

 しかし、この評価通達6項に基づき課税庁が評価する場合には、減額される相続税額が100万や1,000万円程減額されるケースでは適用されないと考えられます。該当する可能性がある方は今回のケースにあるように財産額が大きい富裕層の方に限られると考えられ、通常は評価通達に基づく評価額で問題ございません。

 極端に相続税額を減額する対策はリスクを伴いますので、税務リスクを認識した上でご判断が必要となります。今回の記事が、皆様のご参考になれば幸いでございます。

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