相続により承継した株式や不動産を売却した場合は、取得費加算の特例を適用しましょう。
2023/02/14
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の制度の概要(措法39)
株式や不動産を売却した場合には、収入金額から購入費用+譲渡経費をマイナスして所得を計算します。
<算式>
①売却金額 - ( ②取得費 + ③譲渡経費 ) = 所得金額
所得税は、この所得金額に所得税率を乗じることによって、納付すべき所得税額を計算します。算式の中の項目のうち①売却金額と③の譲渡経費は金融機関や不動産業者に依頼すれば金額を把握することは難しくはないと思います。しかし、購入時の取得費を把握するのは、購入時期が数十年前で資料が残っておらず把握することが出来ない場合も多いと思います。このような場合には、①の売却金額×5%を取得費(概算取得費)とみなして所得金額を計算することになります。つまり売却金額の約95%に対して所得税負担が生じてしまうので、かなりの所得税負担が発生します。株式の譲渡や不動産の長期譲渡所得の場合には所得税率15%、住民税5%が課税されることになります。
きちんと書類が残っており取得費を把握できていれば損失が生じている場合でも、概算取得費で計算した結果、所得税等の税負担をするのは余分な税金を支払うことになりますので、高額な資産を購入した場合には売却するまでは、しっかりと購入時の書類は保管しておきましょう。
今回記載させて頂く制度は、相続で引き継いだ株式や不動産を相続後3年10ヶ月以内に譲渡していれば、相続時に支払った相続税額のうち、売却した資産に対応する相続税額を上記②の取得費として加算することができます。そのため、株式や不動産の売却時の所得税の負担を少し軽減することが可能です。
<計算例>
【前提】
・相続人2人(長男、次男)
・相続財産→預金1億円・不動産5,000万円・株式5,000万円
・長男が取得した財産→預金5,000万円・不動産5,000万円
・二男が取得した財産→預金5,000万円・株式5,000万円
・相続税の負担額 3,340万円(長男・次男共に1,670万円ずつの負担)
長男が要件を満たしている前提で不動産を売却した場合に、取得費に加算できる取得費は次の通りです。
<算式>
1,670万円 × 5,000万円 ÷ 10,000万円 = 835万円(取得費に加算される金額)
(不動産の価格) (長男が取得した全財産の価格)
適用要件
相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例は、要件はそれほど多くはございません。特に注意をして頂きたいのは、期間制限があることです。
また、対象となる資産は売却の際に譲渡所得(所法33条)に該当する資産が特例の対象となりますので、株式等の譲渡による事業所得や雑所得については適用はございません。
<要件>
- 相続や遺贈(死因贈与を含む)により財産を取得していること
- 財産を取得した人に相続税が課税されていること。
- 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること(相続後3年10ヶ月以内)。
- 一定の書類を添付して確定申告すること(期限後申告可)。
この制度は既に支払っている相続税額の一部を譲渡資産の取得費に加算する制度ですので、相続時に相続税を支払っている必要があります。相続税を一切支払っていない方については、そもそも加算する相続税がありませんので、特例の対象とはなりません。
相続で引き継いだ銘柄の株式と同じ銘柄の株式を相続人が保有していた場合には、相続で引き継いだ資産から優先して譲渡したと考えますのでこの特例の対象となりますが、元々保有していた部分については相続等で引き継いでおりませんので、特例の対象とはなりません。
他の規定との関連でいえば、相続した空家を売却した場合の3,000万円控除の特例と重複適用はできませんので、いずれか有利な方を選択適用することになります。
空き家の特例の内容については、下記の記事をご参照ください。
まとめ
今回記載させて頂いた制度は、相続で引き継いだ財産を売却した場合の制度の基本的な内容となります。
相続税の申告の内容に変更が生じますと、所得税の計算にも影響を及ぼすため、後日修正申告や更生の請求が必要といった話もあるかと思います。
また、遺産分割には現物分割、代償分割、換価分割の3つの方法がありますが、代償分割の場合には譲渡資産の取得費に加算する相続税の計算が上記に記載させて頂いた内容と異なる計算式となります。
確定申告書の提出も求められておりますので、詳細は税理士や税務署へご相談の上、忘れずに提出しておきましょう。
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