令和5年税制改正大綱により、相続開始前の生前贈与の取扱いが改正されました。(相続時精算課税制度)

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令和5年税制改正大綱により、相続開始前の生前贈与の取扱いが改正されました。【相続時精算課税】

令和5年税制改正大綱により、相続開始前の生前贈与の取扱いが改正されました。【相続時精算課税】

2022/12/22

 今回は前回に続いて令和5年の税制改正大綱に記載の生前贈与の取扱いの変更点についてご紹介したいと思います。贈与税の課税制度には暦年課税制度と相続時精算課税制度の二つの制度があるので、まずはそれぞれの制度の内容を記載させて頂きます。生前贈与は相続対策を考える中で一番採用されている方法で、今回の税制改正で大きく今後の対応が変わることが見込まれますので、非常に重要な改正となります。

暦年課税制度と相続時精算課税制度(税制改正前)

 暦年課税制度とは、贈与により財産を取得した人ごとに110万円まで控除額があり、贈与により取得した財産額から110万円を控除した残額に対して贈与税を課税する制度です。この制度は、贈与により取得した財産額が多ければ多いほど課税される贈与税率が高くなり、10%から55%の間で課税されます。

<算式>

(1年間の間に贈与により取得した財産 ― 110万円)× ※贈与税率 ― ※控除額 = 贈与税額

※ 贈与税率・控除額はこちらの国税庁ホームページご参照下さい。https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm

 相続時精算課税制度は適用を受けるためにはいくつか要件があります。具体的には①贈与者の要件、②受贈者の要件、③税務署へ届出書の提出が必要となります。この制度を受けるためには、受贈者がこの制度を選択したという届出書を税務署へ提出することになります。何も届出書を提出していない場合には暦年課税制度で課税されます。暦年課税と相続時精算課税の違いは、次の通りとなります。

暦年課税制度
相続時精算課税制度
贈与者の要件
なし
60歳以上の父母または祖父母(贈与年の1月1日現在の年齢)
受贈者の要件
なし
18歳以上かつ贈与者の直系卑属である子や孫(贈与年の1月1日現在の年齢)
基礎控除額
受贈者ごとに毎年110万円
贈与者ごとに一生涯で2,500万円
贈与税率
10%~55%
20%(一定税率)
税務署へ届出
なし
必要
申告の有無
基礎控除額を超える場合
金額に関わらず必ず申告が必要
贈与者が死亡した場合
相続開始前3年以内に受けた贈与財産は、相続時に相続財産に加算
制度を適用以降、贈与財産は全て相続時に相続財産に加算

 現在、暦年課税制度で課税されるケースが圧倒的に多いと思います。その大きな理由は、贈与者が死亡した場合の取扱いが大きく異なるからでございます。相続時精算課税制度は、この制度を選択すると撤回することが出来ず、選択以降の贈与は全て相続時精算課税制度が適用されます。つまり、生前贈与をしても贈与者が死亡した場合には、過去何年前の贈与であっても相続時には相続財産に足し戻す必要があります暦年課税制度の場合は、相続開始前3年以内の贈与のみ加算の対象となりますので、贈与者の財産から完全に切り離すことができる点が大きく異なります。また、相続時に加算される贈与財産の価格は、贈与時の価格となります。このことから、相続時精算課税制度を適用するケースは①値上がりが見込まれる財産、②収益不動産等を贈与する場合など、使用されるケースが限られておりました。今回の改正では、暦年課税制度の加算期間が3年から7年に延長されると共に、相続時精算課税制度がより使い勝手がいい制度となるような改正がされました。

令和6年1月1日以後(税制改正後)

 今回の税制改正は令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産について適用されます。相続時精算課税制度の改正は次の二点となります。

  1. これまでに述べた基礎控除2,500万円とは別に、毎年110万円の控除額が新設されました。そして、贈与者が死亡した場合に加算される金額は、この追加で設けられた110万円の枠内の金額を控除した残額のみを加算の対象とすることになります。
  2. 先に延べたように、相続時精算課税は贈与時の価格で加算されるため、加算される財産額は贈与時の価格で固定されます。そのため、やむを得ない事情により、贈与財産の財産的価値が減少した場合でも、贈与時の価格で加算されておりました。そこで災害によって一定の被害を受けた場合には、贈与時の価格から災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額が加算の対象となりました。
暦年課税制度
相続時精算課税制度
贈与者の要件
なし
60歳以上の父母または祖父母(贈与年の1月1日現在の年齢)
受贈者の要件
なし
18歳以上かつ贈与者の直系卑属である子や孫(贈与年の1月1日現在の年齢)
基礎控除額
受贈者ごとに毎年110万円
①(改正点)毎年110万円まで
上記金額を超える部分について
②贈与者ごとに一生涯で2,500万円  
贈与税率
10%から55%
20%(一定税率)
税務署へ届出
なし
必要
申告の有無
基礎控除額を超える場合
金額に関わらず必ず申告が必要
(改正点)但し、110万円の範囲内は申告不要
贈与者が死亡した場合
(改正点)相続開始前7年以内に受けた贈与財産は、相続時に相続財産に加算
制度を適用以降、贈与財産は全て相続時に相続財産に加算
(改正点)但し、110万円の範囲内は対象外

今後の対応

 暦年課税制度については、相続財産に加算される期間が7年に延長されます。よって、暦年課税制度を適用する機会がお孫様への贈与などに限られることが想定されます。これに対して、相続時精算課税制度についてはこれまで使い勝手が良くないと言われていた部分がカバーされた形になり、暦年課税制度の基礎控除額110万円を組み込んだ形にはなっておりますので、今後は相続時精算課税制度の適用ケースがかなり増加するのではないかと思われます。

贈与で失敗しないためにも、今後の相続税の対策などをご検討されている方は、専門家にご相談されることをお勧め致します。

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