税効果だけを考慮した養子縁組は控えましょう!
2023/03/28
相続対策の中で、養子縁組の活用を聞かれたことがある方もいるかもしれませんが、養子縁組は法定相続人の数が増えますので、相続税額を計算する上では、法定相続分や法定相続人の数に関連する項目に影響を与えます。しかし、法定相続人が増えるということは、それだけ遺産分割の際の紛争リスクに繋がる可能性がありますので、養子縁組をすることによる相続税への影響について記載させて頂きます。
養子縁組の種類
養子縁組の制度について、普通養子縁組と特別養子縁組の2つの種類があり、一般的に皆様が思い描くであろう養子縁組は、普通養子縁組と思います。普通養子縁組については、市役所へ①養子縁組届出書、②養親と養子の戸籍謄本、③届出人の本人確認書類等があれば、比較的容易に行うことができます。
2つの養子縁組の相違点をまとめると次のとおりです。
普通養子 | 特別養子 | |
---|---|---|
要件 | <養親> ・成年に達した者(民法792条) <養子> 尊属又は養親より年長でない者(民法793条) | <養親> ・配偶者のある者であること (民法817条の3) ・25歳以上の者であること。夫婦の一方が25歳以上であれば一方は20歳以上で可。(民法817条の4) <養子> 15歳未満であること(民法817条の5) |
縁組の成立 | 養親と養子の同意により成立(民法796条) | 養親の請求に対し家庭裁判所の決定により成立 |
実父母との親族関係 | 継続 | 終了 |
戸籍の記載 | 実親の名前が記載され、「養子」、「養女」と記載 | 817条の2による裁判確定と記載され、「 養子」と記載されません。 |
離縁 | ・協議離縁(民法811条) ・離縁調停(民法811条4) 調停が不成立の場合は離縁訴訟を提起します。 | ・養子の利益のために必要がある時に家庭裁判所は養子、実親、検察官の請求により離縁 |
特別養子縁組については、父母による養子となるお子さんの監護が著しく困難又は不適当であること等の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると家庭裁判所に認められる必要があります。(民法817条の7)
特別養子縁組は子供を守るという趣旨からも、実親との親子関係が消滅しますので、普通養子縁組とは大きく異なります。
以上のような制度の違いにより、子供の配偶者やお孫様を養子にしようか検討される場合には、普通養子縁組で行うことになりますので、普通養子縁組を行った場合の相続税への影響について見ていきたいと思います。
法定相続人の数に関する規定について
相続税額を計算する上で、法定相続人の数の把握は重要な事項となっております。法定相続の数が関連するのは次の規定に影響を与えます。ただし、税金を計算する上では実子と同様に法定相続人の数に参入する人数に制限を設けております。実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までが法定相続人の数に参入される養子の数となります。
- 基礎控除額の計算
相続税額は課税の対象となる財産額から基礎控除額を控除して相続税額を計算します。基礎控除額の計算は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で基礎控除額を計算します。
- 相続税額の総額の計算
相続税額の総額を計算する場合には、①課税の対象となる財産額から②基礎控除額を控除した残額を③法定相続分で按分した金額に相続税率を乗じて計算しますので、養子縁組することにより法定相続分が変わりますので相続税額に影響を与えます。
- 生命保険金等の非課税金額
- 退職手当金等の非課税金額
この二つの非課税金額についてはそれぞれ同じ算式で非課税金額を算出します。生命保険金等については、被相続人の死亡を原因として支払われる死亡保険金が対象となります。既に年金形式で受け取られている個人年金については、非課税の対象となりません。退職手当金等の非課税金額についても、生命保険金等と同様に被相続人の死亡を原因として支払われる退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与が該当します。
<算式>
500万円×法定相続人の数=非課税金額
法定相続分の基本的な内容については、下記の記事をご参照頂きますと幸いでございます。
具体例
【前提条件】
・被相続人 父
・相続人 母、長男、二男の3名
・法定相続分 母(1/2)、長男(1/4)、二男(1/4)
・遺産総額 2憶円(不動産1億円、預金2,000万円、保険金5,000万円、死亡退職金3,000万円)
この前提条件の上で、1人普通養子縁組をした場合の相続税額は次のような相違があります。
養子縁組前 | 養子縁組後 | |
---|---|---|
法定相続人 | 母、長男、二男の3名 | 母、長男、二男、養子の4名 |
法定相続分 | 母(1/2)、長男(1/4)、二男(1/4) | 母(1/2)、長男(1/6)、二男(1/6)、養子(1/6) |
基礎控除額 | 3,000万円+600万円×3名=4,800万円 | 3,000万円+600万円×4名=5,400万円 |
非課税金額 | 500万円×3名=1,500万円 | 500万円×4名=2,000万円 |
課税対象の金額 | 2億円-1,500万円(生命保険金等の非課税金額)-1,500万円(退職手当金等の非課税金額)=1億7,000万円 | 2億円-2,000万円(生命保険金等の非課税金額)-2,000万円(退職手当金等の非課税金額)=1億6,000万円 |
基礎控除後の金額 | 1憶7,000万円-4,800万円=1億2,200万円 | 1憶6,000万円-5,400万円=1億600万円 |
相続税の総額 | ① 1憶2,200万円×1/2×30%-700万円=1,130万円 ② 1憶2,200万円×1/4×20%-200万円 =410万円 410万円×2名=820万円 ③ ①+②=1,950万円 | ① 1憶600万円×1/2×30%-700万円 =890万円 ② 1憶600万円×1/6×15%-50万円 =215万円 215万円×3名=645万円 ③ ①+②=1,535万円 |
養子縁組をする前と後に最終の相続税のご負担を見て頂くと、養子縁組前は1,950万円、縁組後は1,535万円、差額415万円の相続税額が減少します。このように、養子縁組については相続税を減少させる効果がありますので、相続税の対策としても活用されております。
養子縁組の検討
養子縁組をすることにより、新たに相続人が遺産分割協議に参加することになります。例えば、子供の配偶者を養子縁組したケースを考えてみます。夫婦の関係で円満であれば問題ないですが、万が一離婚をした場合に問題が生じる可能性があります。
離婚をしても、養親との関係には影響しませんので、養子縁組の関係は継続します。
そのため、離縁の手続きを行われなければ離婚した相手が遺産分割協議に参加し、法定相続分の財産取得を主張する可能性があります。相手が離縁に応じなければ、家庭裁判所での調停ということにもなり簡単に離縁をすることが出来ない可能性も考慮して、養子縁組をするかどうか検討する必要があると思います。
孫養子の場合でも複数お孫様がいらっしゃる場合も注意が必要です。
養子縁組をされたお孫様は祖父母の相続と父母の相続の最大4回相続で財産を承継する機会があります。しかし、その他のお孫様は祖父母の相続の際に、相続で財産を承継することは出来ません。そのため、父母の相続の際に、祖父母の財産を承継した人とそうでない人で財産の取り分で争いが発生する可能性があります。
相続税額の負担が多少軽減出来たとしても、家族関係を壊してしまっては意味がありませんので、円満な資産の承継を第一に考えて、養子縁組を検討頂くことが大切です。
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