各財産の相続税評価額の算出方法は?
2023/04/05
相続税額を計算するためには、所有している各財産を評価する必要があります。評価方法については、「財産評価基本通達」(以下、「通達」という)に規定されており、この通達に基づいて評価することになります。財産の種類に応じて様々な評価方法が定められておりますが、一般的に所有されている財産について評価方法を記載させて頂きます。
各財産の評価方法
1.土地・家屋の評価
(1)路線価方式
土地の相続税評価額は、(1)路線価方式又は(2)倍率方式のいずれかで評価します。路線価方式とは、国税庁が毎年7月に公表する路線価(1㎡当たりの単価)で土地の相続税評価額を算出する方法です。路線価とは、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。)ごとに設定されております。言い換えると、「道路に面している標準的な宅地の1㎡当たりの単価」のことです。
令和4年度の路線価図は、下記のリンク先をご参照下さい。
ご自身が所有されている不動産が所在する都道府県を選択し、路線価図を選択して頂くと次のような地図で路線価を確認することができます。路線価は毎年更新され、路線価図の左上に対象となる年が記載されており、下記の路線価は令和4年の相続や贈与の際の評価に使用することになります。
算式の各種補正率の詳細は割愛させて頂きますが、不整形地(凸凹や台形など)の場合には、建物の建築コストが正方形地よりも高くなったり建物を建築出来る面積が狭くなる場合など、正方形地と比較すると宅地の価値は低くなります。このような減価要因を相続税評価額では、路線価に不整形地割合を乗じることで評価額を減額していきます。あくまで一例ですので、ほかにも様々な要因に応じて路線価を補正します。
<算式>
路線価×各種補正率×地積=相続税評価額
仮に、黄色の箇所が評価の対象不動産とすると、対象不動産の前面道路に付されている路線価は「210D」と記載されていることが分かります。これは㎡単価が「210千円」、「借地権割合60%」ということを表しております。借地権割合については、路線価図の上部に内容が記載されており、A~G(借地権割合90%~30%)の間で設定されております。
借地権割合は、土地を有償で貸している場合に使用します。土地の利用方法によって、土地の評価方法は変わりますので、利用方法の違いによる評価方法の違いについても、具体的に見ていきたいと思います。地積は100㎡の正方形地を前提として計算します。
今回は分かりやすいように、各種補正率については省略して計算させて頂きます。大まかな財産額を把握する場合には、路線価×地積で十分です。地積を確認する場合には、市役所より送付される固定資産税課税明細書や土地の登記簿謄本を確認します。登記の地積と実測が大きく異なる場合もありますので、その場合には実測した地積で評価します。試算の段階では、簡易的にグーグルマップ等の地図から測定した地積で評価しても問題ございません。
<利用状況による土地の評価額の違い>
利用状況 | 計算式 | 相続税評価額 |
---|---|---|
① ご自身で使用(自用地) | 210,000円×100㎡ | 21,000,000円 |
② 土地を有償で貸している場合(貸宅地) | 210,000円×100㎡×(1-60%) | 8,400,000円 |
③ 土地を借りている場合(借地権) | 210,000円×100㎡×60% | 12,600,000円 |
④ 土地と建物を貸している場合(貸家建付地) | 210,000円×100㎡×(1-60%×30%) | 17,220,000円 |
土地の評価のポイントは、所有者が保有している所有権のほかに、借地権など第三者の権利が付着しているかどうかによって評価額は大きく異なります。抵当権については、相続税評価額に影響ございませんので、ご注意ください。
① 自用地評価について
ご自身で土地を使用している場合等には、第三者の権利が発生しませんので、最も高い金額で評価されます。この自用地評価額が土地の100%の評価額を意味します。無償で貸している場合や固定資産税相当額という低い地代で親族に土地を貸している場合等には、ご自身で使用している場合と同様に取り扱われます。
② 貸宅地評価について
土地の所有者が、第三者の建物を所有するために土地を有償で貸すと、借主に「借地権」が発生します。借地借家法(平成4年8月1日より前に契約が成立した場合は、旧借地法)に基づき借地人が保護され、土地の所有者は長期間土地を自由に使用することが出来なくなります。この場合、土地を使用する権利である「使用権」と「財産権」に分割するイメージで持って頂くと分かりやすいと思います。この「使用権」部分についても売買することが可能であるため、「使用権」部分の財産的価値を評価する必要があります。これが「借地権」の評価となります。
上記の例で、借地権割合が60%で設定されている土地を前提とすると、土地の所有者は残りの40%部分の財産的価値を保有していることになります。これが「貸宅地」の評価となります。
借地権と貸宅地は表裏一体の関係にあり、相続税額の計算では基本的には借地権価格と貸宅地価格の合計額が自用地評価額という考え方となってます。実際の売買市場においては、借地権価格と貸宅地価格の合計しても100%の評価とはならないことが多いと言われております。理由としては、実際の市場においては借地権の売買市場と、貸宅地の売買市場がそれぞれ独立していること等が挙げられます。
③ 借地権評価について
借地権には普通借地権と定期借地権の2種類あり、今回は普通借地権を前提としております。定期借地権は名前の通り、一定期間経過すれば土地が返還される借地契約です。
これに対して、普通借地権は基本的には更新されていくものになりますので、土地の所有者は契約更新される限りは土地は返還されません。こういった要因は土地の評価額に大きく影響しますので、普通借地権と定期借地権は異なる評価方法となります。
普通借地権の評価については、路線価図に記載されている借地権割合をそのまま使用しますので、100%の評価額である土地の自用地評価額に借地権割合を乗じることで借地権価格を求めることになります。
ただし、借地権価格が発生するのは借地権の取引慣行がある地域に限られておりますので、地方の方にいくと、借地権の需要がなく取引慣行が無い地域では評価額0円ということもあります。
④ 貸家建付地評価について
家を第三者に貸している場合には借地権ではなく、「借家権」という権利が借主に発生します。土地の評価をする際においてもこの「借家権」を考慮する必要があります。この場合、借主の権利部分については借地権割合×借家権割合(30%で固定)で計算されます。
土地の所有者は残りの経済的価値を保有しているという考え方になりますので、今回の例でいくと100%の評価額から借地権割合60%×借家権割合30%=18%を控除した82%で評価することになります。
(2)倍率方式
倍率方式とは、市役所で計算された土地の固定資産税評価額から相続税評価額を算出する方法です。固定資産税評価額に国税庁が定めた倍率を乗じて相続税評価額を求めます。この倍率は、路線価図と同じサイトの中にある倍率表を参照します。市街地においては、ほとんど路線価が付されておりますので路線価方式で評価しますが、市街地以外の土地については、路線価が付されておらず倍率方式で評価することが多いです。
<算式>
土地の固定資産税評価額×倍率=相続税評価額
下記の、固定資産税課税明細書・倍率表を前提に具体的に金額を見ていきます。倍率表と固定資産税課税明細書の所在地が異なりますが、便宜上、固定資産税課税明細書・連番1の所在地の土地は<倍率表>でマークしている池田市木部町の市街化調整区域内に存する宅地に該当しているものと仮定して記載させて頂きます。市街化区域と市街化調整区域の違いですが、都市計画法では次のように規定されております。
市街化区域・市街化調整区域とは?
市街化区域は、すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とする。
市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域とする。
簡単にいうと、市街化区域は積極的に都市の整備を行う地域であり、市街化調整区域は街づくりを行わずに田や山林などの自然を保全する地域です。どちらの地域に該当するかの確認は、市役所の都市計画課で確認できます。近年は、ホームページで公開している市区町村も多いです。市街化調整区域に位置している宅地の多くは倍率方式で評価します。
【計算例】
固定資産税評価額 12,345,678円×1.1(倍率表の宅地の倍率)=13,580,245円(相続税評価額)
評価の際は固定資産税評価額を使用する必要がありますので、誤って固定資産税課税標準額を使用しないようにご注意ください。また、登記地積が実測面積と大きく異なる場合には固定資産税評価額を実測地積ベースに置き換える必要があります。
倍率表のあてはめですが、現況が宅地であれば宅地の倍率、現況が畑や山林の場合にはそれぞれに応じた倍率を採用する必要があります。現況の参考は、固定資産税課税明細書に記載されております課税地目が参考となります。今回は、現況の利用状況が宅地であるため、宅地の倍率「1.1」を適用して計算してます。
第三者に貸している場合などの考え方については、路線価方式と同様となります。
(3)家屋の評価
家屋の評価は基本的には、固定資産税課税明細書の家屋の固定資産税評価額を見て頂ければ大丈夫です。家屋は次の算式で評価します。
<算式>
固定資産税評価額×1.0=相続税評価額
第三者に家屋を貸している場合(貸家)には、固定資産税評価額から借家権割合(30%)を控除して評価します。つまり貸家の評価は、家屋の固定資産税評価額×0.7=相続税評価額となります。
2.金融資産の評価
(1)現金預金
現金預金の評価については、亡くなった日現在の残高で評価します。
しかし、注意して頂きたいのは預金残高だけではなくタンス預金や金庫に保管されている現金も申告の対象です。お亡くなりになる直前に引き出したお金も申告する上では加算して申告することになります。
定期預金については、相続発生日までの既経過利息を考慮する必要があります。これは相続時、金融機関に残高証明書の発行依頼をする際に既経過利息も残高証明書に記載して頂けますので、ご自身で計算する必要はございません。金額も少額ですので、試算の段階では単純にお手元にある現金預金だけ考慮すれば十分です。外貨預金をお持ちの場合には、円換算する必要がありますが、その際に採用するレートはTTB(対顧客電信買相場)を適用します。現金預金に限らず、外貨建資産は全てこのTTBで円換算し、債務はTTS(対顧客電信売相場)を適用します。
(2)上場株式
上場株式の評価は、単価×株式数で評価します。株式数は、証券会社より送付される3ヶ月ごとの取引レポートや、配当金の支払通知書をご確認ください。単価については、下記の4つの単価のうち、最も低い数値を採用します。
①死亡日や贈与により財産を取得した日(以下、「課税時期」という)の終値
②課税時期の属する月の月平均額
③課税時期の属する月の前月の月平均額
④課税時期の属する月の前々月の月平均額
<算式>
株価×数量=相続税評価額
例えば、相続発生日が4月10日の場合には、①4月10日時点の終値、②4月平均額、③3月平均額、④2月平均額を調べて最も低い単価で計算します。
株価はYahoo!ファイナンスや日本取引所グループの月間相場表をご参照頂ければ調べることができます。また、ご相続時では残高証明書を取得する際に、ご相続の参考資料として株価の資料も併せて証券会社より送付して頂けます。
(3)投資信託
投資信託の評価は、投資信託の種類に応じて評価方法が異なります。必要な情報は、課税時期時点の基準価格と口数になります。金融機関より送付されます取引レポートを確認して頂ければ基準日時点の基準価格と口数の記載がありますので、試算する上ではこれらの情報に基づき評価額を確認します。また、相続時に投資信託の評価をする上では、購入時の購入金額の情報も必要となります。これは、証券会社より送付されます取引レポートに記載があることが多いので、最新の取引レポートは保管しておきましょう。
ご相続が発生した場合には、死亡日の残高証明書を金融機関に発行依頼する必要がありますので、残高証明書で基準価格と口数が確認出来ます。
① 中期国債ファンドやMMF(マネー・マネージメント・ファンド)等の日々決算型の証券投資信託の受益証券
課税時期において解約請求等により証券会社などから支払いを受けることができる価額として、次の算式により計算した金額によって評価します。
<算式>
1口あたりの基準額 × 口数 + 再投資されていない未収分配金(A) − Aにつき源泉徴収されるべき所得税額に相当する金額 − 信託財産留保額および解約手数料
② ①以外の証券投資信託の受益証券
課税時期において解約請求等により、証券会社などから支払いを受けることができる価額として、次の算式により計算した金額によって評価します。
<算式>
1口当たりの基準額 × 口数 − 課税時期において解約請求等した場合に源泉徴収されるべき所得税額に相当する金額 − 信託財産留保額および解約手数料
この場合において、例えば、1万口当たりの基準価額が公表されている証券投資信託については、算式中の「課税時期の1口当たりの基準価額」を「課税時期の1万口当たりの基準価額」と、「口数」を「口数を1万で除して求めた数」と読み替えて計算した金額とします。
また、課税時期の基準価額がない場合には、課税時期前の基準価額のうち、課税時期に最も近い日の基準価額を課税時期の基準価額として計算します。
③ 上場投資信託
上場株式の評価に準じて、評価します。
(4)公社債
公社債とは、国や地方公共団体、企業が資金調達を目的に発行した有価証券のことをいいます。代表的なものは国が発行する「国債」や企業が発行する「社債」が該当します。様々の方法で発行され、それぞれに応じた評価方法に相違点がありますので、代表的なものを記載させて頂きます。
なお、公社債の価格として公表されている金額は、券面額100円あたりの金額となります。例えば、額面5,000,000円の公社債の場合、98円で公表されている場合には、約4,900,000円の評価額となります。厳密には、もう少し修正が必要ですが、概算で把握する場合には、額面金額と相続税評価額は概ね近い数字となります。
<利付公社債の評価>
利付公社債とは、定期的に利子が支払われる債券で、償還期日に券面額で償還されるものです。債券の種類の相違に応じて、評価方法も下記のように異なって参ります。
①金融商品取引所に上場されている利付公社債
(課税時期の最終価格+源泉所得税相当額控除後の既経過利息)×券面額/100円=相続税評価額
上記算式中の「最終価格」は、日本証券業協会において売買参考統計値が公表される銘柄として選定された利付公社債である場合には、金融商品取引所が公表する「最終価格」と日本証券業協会が公表する「平均値」とのいずれか低いほうの金額となります。
②日本証券業協会において売買参考統計値が公表される銘柄として選定された利付公社債(上場されているものを除く。)
(課税時期の平均値+源泉所得税相当額控除後の既経過利息)×券面額/100円=相続税評価額
③その他の利付公社債
(発行価格+源泉所得税相当額控除後の既経過利息)×券面額/100円=相続税評価額
<割引発行の公社債>
割引発行の公社債とは、額面金額を下回る金額で発行される債券をいいます。満期時には額面金額で償還されますので、額面金額と発行価額との差額は実質的には利息となります。
①金融商品取引所に上場されている割引発行の公社債
課税時期の最終価格×券面額/100円=相続税評価額
②日本証券業協会において売買参考統計値が公表される銘柄として選定された割引発行の公社債(上記(①および割引金融債を除く。)
課税時期の平均値×券面額/100円=相続税評価額
③その他の割引発行の公社債
{発行価格+(券面額-発行価格)×発行日から課税時期までの日数/発行日から償還期限までの日数}×券面額/100円=相続税評価額
3.債務
相続税の申告の対象となるのは、財産はもちろん計上しなければなりませんが、債務についても考慮する必要があります。相続税額は財産額から債務を控除して計算します。債務に該当するものは、銀行からの借入残額は通常該当しますが、住宅ローンでご自宅を購入された方は団体信用生命保険に加入されていることが多いと思います。加入されている場合は、ご相続が発生した場合に住宅ローンの残債を返済しなくて済みますので、債務の対象とはなりません。
また、債務は遺産分割の内容によっては課税される金額が異なる場合がありますので注意が必要です。具体的には次の例で見ていきたいと思います。
具体例
【前提条件】
・相続人 子2人
・財産構成 預金1憶円、不動産5,000万円、借入金8,000万円
<ケース1>
子Aの取得財産:預金5,000万円
子Bの取得財産:預金5,000万円、不動産5,000万円、借入金8,000万円
この場合、課税される相続税額は次の通りです。
■課税対象金額 5,000万円+(5,000万円+5,000万円-8,000万円)=7,000万円
■相続税額 320万円
<ケース2>
子Aの取得財産 預金7,500万円
子Bの取得財産 預金2,500万円、不動産5,000万円、借入金8,000万円
この場合、課税される相続税額は次の通りです。
■課税対象金額 7,500万円+(2,500万円+5,000万円-8,000万円<0∴0)=7,500万円
■相続税額 395万円
※課税対象金額は、相続人ごとに取得する財産・債務を合算して計算します。そのため、<ケース2>の子Bの取得する財産・債務の合計がマイナスとなった場合には、そのマイナスは切り捨てられることになりますので、<ケース1>より課税される金額が多くなります。
債務の考え方については、相続開始時点までに商品を購入したりサービスの提供を受けており、支払が未払となっているものが該当します。
代表的なものはクレジットカードの支払で、利用日が生前の日付の取引で、支払日が死亡後に到来するようなものは債務に該当します。相続後に解約手続きを失念していたり、利用日が相続発生後のものは、被相続人の支払うべきお金ではございませんので、財産からマイナスすることはできません。
保証人や連帯保証人になっている場合には、保証金額を債務としてマイナスすることはできません。本来返済すべき主債務者がいる限り、返済義務を負わないためです。仮に、主債務者が支払不能となり残債を保証人が支払った場合でも、保証人は主債務者に対して返済を求める権利(求償権)により補填される可能性があるため、確実な債務とはいえないためです。
しかし、主債務者に求償権を行使しても弁済を受ける見込みのない場合には、その弁済不能部分の金額については、債務控除の対象となるとされております。
まとめ
今回記載させて頂いた財産以外にも、申告書に計上すべき財産はございます。生命保険金や退職手当金等についても、相続財産とみなされて課税されますので、死亡保険金や個人年金なども把握しておく必要があります。また、生前贈与財産や被相続人名義以外(名義預金・名義株式等)の財産についても申告の対象となりますので、もれがないように注意しましょう。相続時に必要となる資料は下記の記事をご参照頂ければ幸いです。
相続税の申告の対象となる財産については、亡くなった人が原資を負担した経済的価値があるものが対象となります。そのため、著作権など無形の資産も申告の対象となりますし、生前贈与が成立していない親族名義の財産も申告の対象となります。特に名義預金については税務調査でよく争点となります。後々問題とならないように、正しい方法でしっかりと生前対策を行っておきましょう。
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